池袋サンシャイン水族館の空飛ぶペンギンと邂逅する②
大学生活は短かった。
過剰な夢と希望を抱えて入学して一学期で終わりを告げた。
誰と会ってどの科目をとったのか思い出せない。
薬のせいかもしれない。
いや思い出したくないのだ。
それでも数学の期末テストの光景は何度なくフラッシュバックする。
数学者になりたいという夢がまず打ち砕かれた瞬間だ。
手から額から汗がしみでる。わきや背中もびしょびしょだ。
全くわからないのだ。部分点もとれないかもしれない。
零点なのか。赤点どころではない。
東京大学の理科一類に進学したのはつい3,4か月ほど前のことだった。
数学者になりたい、そう夢見ていた。数学の授業は毎週欠かさず出席していたしノートもきっちりと取っている。
それで何も問題はなかったのだ。高校までは。
焦るな部分点を取るんだ。東京大学の入試が遠い昔に感じられた。
開始30分がすぎた。
かなりの人数が涼しい顔をして答案を書き上げ教室から退出していった。
なんだか自分が酷く馬鹿に思えてきて泣きそうになってしまった。
<その光景を思い出すだけで泣いてしまう>
なぜここまで差があるのだろう。全くの想定外だった。このままでは数学科に進むことさえできない。彼らは高校で数学科だったのだろう。
<そうだ。わたしだってスーパーサイエンスハイスクールに進学していたら難なくあの忌々しい問題を解けたに違いない>
時間だ、答案を教室に提出して退室するように指示された。
ぞろりぞろりとうつむき加減で精根が尽き果てた様子で答案を出している。
わたしもそのひとりだ。
数学科だけではない理学部ではお前は落ちこぼれなのだと一学期で決められてしまったのだ。
これからどうすればいいのだろう。
進振り、大学2年生終了時点の成績により希望の学部を選択できる制度、でわたしに学部を選択する決定権はなくなってしまった。
頭が真っ白になった。