氷河期物語 ~バブル崩壊をいきる~
〇キャリアセンター
「ええか、お前らに遊んでる余裕はない。早稲田や慶應レベルの学生ですら就職先があらへん。おまえらみたいなしょーもない凡人は人一倍努力せなあかん。日本一勉強する大学生でもならにゃ勝てん」
「いいか、早慶で大企業落ちた連中がいま何やってるかわかるのか。専門学校にいってるんだぞ。専門だぞ専門」
浪人して予備校に通いそこそこの私立文系に進学して安堵したのもつかの間だった。
学校のキャリアガイダンスどおりに、TOEICや日商簿記も受けて、企業の要求水準は満たしている。
ちょっと数年前の先輩たちなら名のある大手企業にも余裕で入社できていたのだが、
受けた大手企業すべてに落ちてしまった。
これからどうやって生きていけばいいのだろう。専門学校に行けばいいのだろうか。
「いや、おれは就職浪人することに決めたよ。大学院に進学するか、卒論書かないで留年するよ。大手企業に入社できないんじゃこの大学に来た意味がないじゃないか」
ゼミで一緒だった大津がいう。やっぱり18歳に交じっての専門学校はプライドが許さないらしい。
ぼくも中小企業に入社するか、大学院に進学するか、それとも技術を身につけるために専門学校に行くか、選択しなければいけない。
※
「おまえ、コールセンターで働いているのか!?」
ゼミで一緒だった玉城がコールセンターで働いているといって、髪がぼさぼさで化粧っ気のない顔で飲み会に顔を見せた。
「お前なら、商社や銀行、いやマスコミだって余裕だと思っていたのに」
話を聞くと、ぼくと同様に大手企業は全滅だったらしい。ようやく合格したコールセンターを運営しているIT系の企業に決めたそうだ。
「もう同期で残っているのはわたしを含めて指で数えられるほど。わたしの顔を見ればわかるけどもう女を捨ててるよね」
玉城は疲れ切ってはいるがゲリラの義勇軍のような雰囲気を醸し出していた。彼女も何かと戦っているのだろう。
※
飲み会の帰り道で駅から自宅までバスに乗らず歩きたい気分になった。
歩くと30分はかかる。
いやコールセンターでも大学院でモラトリアムの延長をしているぼくよりはましだよな。こんな不景気はやく終わればいいのに。いったいぼくが何をしたというのだ。
ど文系で語学が比較的特異なだけ。それに誰も知らないような文学の研究をしている。大学院にいることは就活にはプラスにならないことはわかっている。
何か難関資格を得るか、専門技術を身に付けなきゃ生きていけない。
でもどうすればいいんだろう。